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大阪地方裁判所 平成元年(わ)1345号 判決

本店所在地

大阪市中央区瓦町四丁目三番一四-三一二号

トータク・リード株式会社

(右代表者代表取締役 野尻宣子)

(右代理人 野尻兌)

本籍

大阪府大阪狭山市大字茱木九四八番地の二

住居

同府堺市城山台三丁一三番一〇号

会社役員

野尻兌

昭和一七年五月一五日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官山田廸弘出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人トータク・リード株式会社を罰金一〇〇〇万円に、被告人野尻兌を懲役八月にそれぞれ処する。

被告人野尻兌に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人トータク・リード株式会社(以下、被告会社という。)は、大阪市中央区瓦町四丁目三番一四-三一二号(旧東区瓦町五丁目五五番地の一)に本店を置き、不動産仲介業等を目的とする資本金五〇〇万円の法人であり、被告人野尻兌(以下、被告人という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、被告会社の昭和六一年八月一日から同六二年七月三一日までの事業年度における実際所得金額が一億一四八八万二八三三円(別紙(一)修正損益計算書参照)あつたにもかかわらず、仲介手数料収入の一部を除外するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、法定納期限の翌日である同六二年一〇月一日、大阪市中央区大手前一丁目五番六三号(旧東区大手前之町一)所在の所轄東税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が二四〇九万九三〇七円でこれに対する法人税額が九一六万一五〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税四七二九万四〇〇円と右申告税額との差額三八一二万八九〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告会社代理人兼被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  収税官吏の被告人に対する各質問てん末書(一四通)

一  石田晴夫(謄本ただし、不同意部分を除く)、宮崎文孝及び山田政義の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏の石田晴夫(検察官請求証拠番号27を除くその余の三通)、宮崎文孝(二通)、上原末歳、倉橋幹雄(謄本)福田康生、高島こと高信弘、上成嘉法、中川勝(ただし、不同意部分を除く)及び山田政義(謄本)に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の各査察官調査書(前記証拠番号12を除くその余の一九通)

一  収税官吏作成の脱税額計算書

一  東税務署長作成の証明書

一  被告会社作成の証明書

一  検察事務官作成の電話聴取書謄本

一  被告会社に関する商業登記簿及び閉鎖商業登記簿の各謄本

(争点に対する判断)

弁護人は、検察官の主張において被告会社が受け取つたとされる仲介手数料一億三七〇〇万円(別紙(一)修正損益計算書勘定科目受取仲介手数料参照)のうち三七〇〇万円について、右は一晃建設株式会社の所得であつて、被告会社の所得でなく、少なくとも本件確定申告当時の被告人の認識はそうであつたから、これを本件ほ脱所得に含ませることはできない旨主張し、被告人も当公判延において同旨の弁解をする。

しかしながら、関係証拠を総合すると、右の三七〇〇万円は、被告会社ほか二名の仲介により締結された売主阪神技研株式会社(実質は扶桑設計コンサルタントこと倉橋幹雄)・買主アビコ建設株式会社ほか一名(実質は株式会社富士住建)間の昭和六二年一月二三日付不動産売買契約にかかる仲介手数料の追加分として、被告会社が右倉橋から受け取つたもので、検察官主張のように被告会社の所得であると認められる。すなわち、証拠によると、右の売買は既に前記日付をもつていつたん契約が成立し、その際仲介者らの受け取るべき報酬(仲介手数料)の額についても関係者の間で取決めがなされ、うち被告会社の取得分は一億円と定められていたこと、しかし、その後事情があつて、右売買は目的物件の引渡しの準備に手間取り、約定どおりの履行が困難となつたことから、売主側において被告人に対し、決済日を暫時延期してもらいたい旨要請してきたこと、そのため被告人は、右売買の仲介者の一人であるワールド開発株式会社社長石田晴夫と共に、再度右延期を含む契約条件の変更等の調整に当たることとなり、さまざまな交渉を重ねた結果、結局右売買は契約内容に一部変更が加えられたものの、昭和六二年八月末ころまでに売主・買主ともすべての約定債務の履行を完了して、その実現を見るに至つたこと、また、右延期の事態発生に伴つて、仲介手数料も売主側から追加して支払われることとなり、その結果、被告人は、まず同年三月三〇日にさきの取決めによる一億円を、次いで同年七月一日に右追加分として前記石田を介し三七〇〇万円をそれぞれ受領したこと、ところで、被告人は右売買につき当初から被告会社の代表者として関与しており、このことは契約書等の表示の上でも明記されていること、他方、弁護人のいう一晃建設株式会社は、被告人も自認するように、当時全く営業活動を行つていない休眠会社であつたことなどが認められ、これらの事実に照らすと、右の三七〇〇万円は、さきに受領した一億円と同じく、被告会社がその名において売買の仲介をしたことに対する報酬で、被告会社の所得と見るほかない。なるほど本件においては、被告人が右三七〇〇万円のうち三一〇〇万円を大阪銀行出戸駅前支店の一晃建設株式会社名義の普通預金口座に入金したという事実が存在するが、これは、せいぜい被告会社の所得の事後的処分行為といえるものにすぎなく、何ら右三七〇〇万円の帰属についての前記認定を左右するものではない。

次に、右帰属に関する被告人の認識の点についてみても、これまた十分肯認することができる。なぜなら、本件の場合、被告人は前記売買の仲介に終始自ら当たつており、その受領した前記三七〇〇万円の性質についてもこれを知悉していたものであつて、右金員が被告会社の所得であることは、被告人にとつても見易い道理といえるからである。右認定に反する被告人の当公判延における供述は、その捜査段階における自白等に照らし、とうてい信用できない。

以上の次第であるから、弁護人の主張は理由がない。

(法令の適用)

被告人の判示所為は法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役八月に処し、情状により、刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人の判示所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、その金額の範囲内で被告会社を罰金一〇〇〇万円に処することとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 白井万久)

別紙(一)

修正損益計算書

(トータク・リード株式会社)

自 昭和61年8月1日

至 昭和62年7月31日

〈省略〉

別紙(二)

税額計算書

トータク・リード株式会社

〈省略〉

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